黒猫の見る夢if 第1話 |
神根島で捕獲したテロリストの首魁ゼロはルルーシュだった。 その可能性に薄々気づいてはいた。 もっと早くに決心し、彼を逮捕していればユフィは死なせずに済んだんだ。 あんな事をさせずに済んだんだ。 僕は自責の念を抱きながら、ルルーシュを皇帝の前へと引きずりだした。 拘束衣を着ている上に、上から押さえつけられている事で、それでなくても貧弱な彼は僕の腕から逃れる事は出来ず、唯一動くその頭をこちらに向け、未だに強い光を宿す瞳で睨みつけてきた。 不愉快なその瞳から目を逸らすと、僕は褒賞として皇帝にラウンズの地位を求めた。 「友人を売って地位を手に入れるつもりかっ!」 「そうだ」 友人?笑わせるな。 皇帝の実子でありながら、私欲のため兄と妹をその手に掛けた悪魔。嘗ての友人に対する今の僕の評価はその程度だ。 良心など欠片も痛まなかった。友人の顔をし僕に接していた男は、悪魔の力で心優しいユーフェミアを操り、その名を汚し、殺害した大罪人だ。その罪、許すつもりなどない。 僕を理解し、掬いあげてくれた唯一の人。 彼女の替りなど何処にもいない。 僕は守らなければならない主であり、理解者となってくれた唯一人の人を失ったのだ。 もしかしたら愛していたのかもしれない。そんな女性を。 思いで人が殺せるのであれば、間違い無く僕は今ルルーシュを殺しているだろう。 だが、殺しはしない。 法の裁きを受けてもらう。 そんな僕達の様子を見ていた皇帝は、突然楽しそうに笑い声を上げると、ラウンズの地位を約束し、ルルーシュの左目をふさぎ、右目をこちらに向けるよう指示を出したので、迷うことなくそれに従った。 ルルーシュの悲痛な叫びを聞いても、何も感じない。これは自業自得だ。 皇帝もギアスを持っている事は今知ったが、目を見なければ自分にかかる事は無いだろう。ギアスでユフィを陥れ、殺したのだから、ギアスで苦しむのは当然の処罰だ。 だが、皇帝がギアスを発動させた瞬間、僕はその顔に驚きの表情を乗せた。 今までその黒髪を掴み、その顔を抑えていた手から、質量が消えた。 視界にもその姿が見えなくなったのだ。 いや、違う。 目の前には、いるのだ。 だがこれは、これもギアス? 一瞬我を忘れてしまったが、おそらくルルーシュなのだろうそれに手を伸ばし、とりあえず抑えつけた。何も反応を示さないそれは小刻みに震えており、イレギュラーに脳が対応しきれていないのかもしれないなと、判断した。 何せ、突然体が小さくなったのだ。 それも、人の姿ではない。 全く動かず震えるそれを、スザクは掴み上げる。 軽い。 先ほどまでも、男にしては軽いと思ったが、これはその比ではない。 スザクの手の中にいるモノ。 それは真っ黒な子猫だった。 掌にはあまるが、アーサーよりかなり小さい。 イレギュラーには強いと自負していたが、やはり突然の出来事で混乱していたのだろう。再び皇帝の笑い声が響き渡り、スザクは今謁見中だと言う事を思い出した。 「ふむ、黒猫とな。面白い。ビスマルクよ、アレを放り込んでおけ」 「イエス・ユアマジェスティ」 皇帝の傍に控えていたナイトオブワン・ビスマルクは、スザクの手にあった、今だ硬直したままの猫を受け取った。 その瞬間、猫はようやく事態を飲みこめたのか、全身の毛を逆立て暴れ始めた。 声は無い。 鳴き方が解らないのか、ショックで声が出ないのか。 ビスマルクは引っかかれる事など構わない様子で、その大きな手の中に子猫を閉じ込めると、皇帝の傍へ戻っていった。 すぐに退室の命令が出されたため、その後の事など解らない。 その猫がどのような扱いを受けるかなんて、もう僕には関係の無い事だと、スザクは考えないようにした。 ルルーシュを踏み台にして手に入れたこの地位。 これを利用し、必ずナイトオブワンとなり日本を手にして見せる。 そう、心に誓った。 |